【猫舌研究の第一人者】心底笑男氏、貴重なロングインタビュー!

2012-03-18  Reo Yoshida

今回は我がSenkawosのアルバムライナーノーツで御馴染み。音楽評論家であり、同時に猫舌研究の世界的な第一人者でもある心底笑男さんの貴重な単独ロングインタビューに成功したので、余すことなくお届け致します!

俺田塩男(以下 ★):お久しぶりです。

心底笑男(以下 心底):どーも!やってますかSenkawosは。

★:はい、あの、今度セカンドアルバムがでるんです!また例のライナーノー
ツをお願いするつもりですので、その時は宜しくお願いしますね。

心底:ああ、そうですか!いやーこれはたのしみですね。発売はいつ頃?

★:6月の初旬を予定してます。

心底:なるほど。初夏の乱とでも申しますか。

★:あはっ!いや、これは、またいいお言葉を(笑)。

心底:なははは(笑)!

★:では本題の方へ。本日は、猫舌についてお聞きしたい事が山程あるので、宜
しくお願いいたします。

心底:はい。宜しくお願いします。

★:では、まずはじめに、猫舌に興味をもったきっかけからお聞かせください。

心底:そうですね。私の父親の著書、「アツアツでない料理は、料理ではない」
が及ぼした幼少の頃からの私自身の熱々信仰と、それを真逆から拒絶、否定し
た猫舌の「冷めるまで待つ」という考え方のベクトルというか、人間の趣味趣
向の振れ幅に衝撃を受けたのが最初ですね。

★:父親のアツアツ教育はまさにスパルタであった。と、去年出版された世界
初の猫舌研究書「猫舌の時代」にありますね。

心底:そうですね。まずうちの食卓では、冷ますという概念がありませんでした
ね。だから私はヤケドというものがどんなものか、中学時代に体験する先輩から
執拗に受けた根性焼きで初めて知りました。それまでは、食後の舌に残っていた
違和感は美味しさの残響だ。と父親に教えられていたのです。

★:では、友人と食事に行き、冷めた料理が出てきた時などは、どうされていた
んですか?

心底:もちろん「アツアツになるまで温め直してくれ。」とお願いしていました

★:友人の反応はいかがでしたか。

心底:まあ、そういったクレームよりも、マグマの様に煮えたぎるグラタンやお
でんなんかを平気で食べる私を不思議な目で見ていましたね。

★:冷たい蕎麦なんかは邪道と?

心底:いえいえ、そんな事はないですよ。もり蕎麦の美味さはもちろん知ってま
すし、蕎麦はツユに半分だけつけて、二、三回噛んだらすぐ飲み込むのが粋だと
か。その様な作法も叩き込まれましたからね。つまり、熱い冷たいではなく、料
理法に則した食べ方を身につけろ。と父親にはこっぴどくしつけられました。

★:それは面白いですね。

心底:うちでは、これが普通でしたからね。トンカツなら揚げたて。魚や肉なら
焼きたて。肉マンなら蒸したて。パスタは茹でたて。といった具合に、まあ異
常な程に「出来たて」に対する拘りがありましたね。

★:それは、ある種のトラウマでもあるのですか?心底さんの日常生活でその教
育が影響する場面はあるのでしょうか。

心底:まあ、ラーメン屋でぬるいスープなんか出されたら、文句の一つも言いま
すね。でも、もし父親がこの店に入ったら。と思うとゾッとする場面は何度もあ
ります。

★:お父様がそのラーメン屋に入ったら、店主と喧嘩でも起きるのですか(笑)?

心底:喧嘩ならまだいいですよ(笑)。厨房に勝手に入って徹底指導する事もしょ
っちゅうです(笑)。どんなに汚いラーメン屋でも美味しければ文句も言わない。
でも、ぬるいスープを出す店だけは許せないみたいですね。

★:伊丹十三監督の「タンポポ」で、そんなシーンがありましたね。女主人タン
ポポのラーメン屋に初めて入ったゴローが、沸騰してない鍋を見て訝しくなるシ
ーンですね。

心底:まあ父親の場合は、発狂寸前の怒りを感じましたけどね(笑)。

★:そんな心底さんのアツアツ信仰心を根底から揺るがし、のちに研究書まで発
表することになる人物、通称「猫舌」さんの存在。彼との出会いから、研究対象
となった経緯などを聞かせてください。

心底:はい。もともと私は音楽評論家として執筆活動をしていました。そこでセ
ンカヲスというバンドに出会います。彼らへの取材を重ねる度に訪れる飲食店
で、メンバーの中で唯一、全く料理に手を付けない男がいました。

★:その人が猫舌さんですね。

心底:ええ。まず私の感覚から言うと、出された料理に手を付けないスタンスと
いうものが癇に障りまして。彼には怒りに似た感情が沸き起こりました。

★:それで、彼になんと?

心底:いや、その時点では料理人に失礼なやつだなー。ぐらいにしか思わなかっ
たので、まあ放って置いたわけですよ。

★:もし心底さんのお父様が御一緒だったら…。

心底:半殺しでは済まなされないですね(笑)。

★:それは怖いですね(笑)。

心底:でまあ、ある時、彼とも打ち解けて来たので、「何故出された料理をすぐ
食べないのか」と聞いてみた訳です。

★:核心をついたと。

心底:ええ。で、彼の口から出てきた言葉が「俺、猫舌やねん。」でした。私は
58年生きて来て初めて猫舌と言う言葉を聞きましたね。

★:えー。それもなかなか珍しいんじゃないですか?

心底:そうですかね。まあ父親の呪縛が私と猫舌というものを、それまで引き合
わせなかったというのは偶然ではないと思うんですが。

★:それから、彼とはどういう付き合い方を?

心底:それこそ徹底交戦の構えで立ち向かいました。でも次第に本質はそこには
ないと悟ったのです。

★:といいますと?

心底:ええ。実は彼が一人で銀ダコを買っている所を目撃しましてね。熱い熱い
はずのタコ焼きをハフハフ言いながらも、美味しそうに食べていたのです。

★:あちゃー(笑)。

心底:衝撃でしたね(笑)。数日後、彼に会った時に問いただしてみたんですが、
まあ意固地に認めないわけです。

★:わかります(笑)。

心底:今となれば、なんのそのですが(笑)。で、他のメンバー、大島さんや俺田
さんなんかに聞いてみたんですよね。

★:はい。鬼気迫る感じでしたね。

心底:大島さん曰く、彼には「キャラ」というある種、病的な癖がある。と。

★:ええ。

心底:つまり彼は、テレビ業界でいうならば【猫舌】という自分のキャラクター
を売り出したタレントという立ち位置だったのだ。という結論に達したのです。
人の心というのは不思議なもので、猫舌ではないのに熱いものは食べられないと
いうキャラクターを押し出す矛盾。全く無意味な自己表現ではありますが、私自
身にも人には理解され難い趣味趣向や性癖があるではないか。と折り合いをつけ
ていきました。そして、いつしか【猫舌】という趣向そのものから、彼自身のパ
ーソナルな部分に興味が移っていったんですね。

★:それもまあ、珍しいですよね。

心底:ええ。でも正直、彼の人間性について掘り下げれば掘り下げる程、分から
なくなっていった、というのが本音です。彼には猫舌キャラの他にも、【炭酸苦
手キャラ】や【ホルモン食べられないキャラ】など、数えきれない自己演出とい
うか、自己表現のようなものがありました。

★:もう何がなんだか(笑)。

心底:つまり、非常に捻くれた考えの持ち主かつ、ナルシストであり、人とは違う
という天邪鬼の究極ともとれる人間性が次第に浮き彫りになってきました。私の思
考や人類の共通意識からはかけ離れている、いわば未確認知的生命体とでもいいま
すか。でも先程申し上げましたが、やはり十人十色の考え方というものを否定して
はいけないと思うのです。ましてや誰が損をするでもないその行為、まあ彼自身の
得にもなってはいませんが(笑)。

★:(笑)。

心底:私は彼自身に人類の可能性や、人生の無意味であり、奇跡的でもあるなにか。
人類学や行動心理の分野にまで及ぶ不確定さを学ばざるを得ませんでした。人間と
はなにか。人生とは。何故人は生まれてきたのか。宇宙はどうやって出来たのか。
そして、なぜ彼は猫舌であることに執着し続けるのか。

★:そこまで深く行ってしまいましたか。

心底:ええ。人間に【ナゼ】という疑問が無かったら、もう少しシンプルな社会に
なっていたんじゃないかと推測されますよね。しかし私は彼についてまだなにも解
っていないに等しいのです。でも収穫があったことも事実です。彼の名言であり迷
言でもある、数々の「言葉」達を書き留めてゆくにつれて、なにかひとつのまとま
ったテーマが見えてきました。

★:そして、彼をモチーフにした数々の小説が生まれたのは記憶に新しいところで
すね。いずれもアンダーグラウンドヒットの枠を超えはしなかったものの、一部マ
ニアからのカルト的な支持を得るまでになりました。最初は「小籠包の殺傷能力」
でしたっけ?

心底:いや、その前に「水だしカップ麺」という自費出版がありました。そのあと
に「小籠包の殺傷能力」。「エア火傷」。そして「冷やし中華を頼む責任感」と続
きます。

★:そして、広く世に知られる事になる最大ヒットともいえる「冷めないラーメン
はない」が2009年に発表されました。あれはどういった経緯で?

心底:シェークスピアの「明けない夜はない」からインスピレーションを受けて一
気に書き上げました。純文学を意識したある種の挑戦でもありました。あと「やま
ない雨はない」という言葉も意識しています。

★:いずれも、深く染み入るストーリーが印象的な作品ですね。

心底:次作はタイトルだけ決まってるんですよ。「このスープが 熱いと君が言っ
たから 9月5日は猫舌記念日」。

★:それはまた、かなり大作な予感がしますね(笑)。

心底:まあ期待はしないほうが(笑)。

★:では、最後に心底笑男さんにとって、猫舌とは何か。と敢えてお聞きしても宜
しいでしょうか。

心底:私はまだ猫舌について、1%も知らないと言っていいほどです。人間の心の
闇というのは、その人自身にも解り得無い可能性を秘めています。例えば、外国
の見慣れぬ風習を不思議に思う様に、同じ日本人同士でも理解し難い行動に走る
ある種のパラドックスが日々日常あらゆるところで起こっているということが、
彼を観察して解りました。しかし、まだまだ研究を重ねる必要はありますね。

★:小説「冷めないラーメンはない」が映画化されるという噂は本当ですか?

心底:ええ。もう動きだしているみたいですよ。

★:それは、とても楽しみです!では、本日は貴重なお話を聞かせていただきあ
りがとうございます!

心底:いえ、こちらこそありがとうございます!

2012/03/18  Interview by 俺田塩男

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