心底笑男の不思議な対談[第五回] 心底笑男×吉田玲央

2013-05-23  Takenori Oshima

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どうも。心底笑男です。

Senkawosのメンバーそれぞれが持つ、ディープでキッチュな側面を掘り下げるインタビュー企画、「心底笑男の不思議な対談」。最終回の今回はSenkawosのキーボードと歌担当、吉田玲央 a.k.a. 俺田塩男さんをお迎えしました。「お茶の間涅槃」スタイルを掲げるチルアウトDJとしても活躍する彼ならではの音楽感を少しづつ紐解いて行きましょう。もちろん、新作「Seed」についても触れていきますYO!

心底笑男×吉田玲央

心底:吉田くん、お久しぶりだね。

吉田:どーも!お久しぶりですね。

心底:どう最近、塩辛は?相変わらず作ってる?

吉田:そうそう、今日は心底さんの為に、、これ、、!作って来ましたよ!昨日丁度良いスルメイカが入ったので。

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心底:えぇ〜(笑)。これは旨そう!じゃあまだ陽も高いけど、始めちゃおうかね。。(一升瓶を取り出す)うん、モグモグ。。美味い!!熟成されてるね。何日目?

吉田:四日目ですね。最低でもこのくらいは寝かしたいとこです。

心底:ふむ、これは、、キテるね!止まらない!さてさて、吉田くんはSenkawosのキーボードと歌担当だよね。今日は音楽遍歴や趣味の話なんかを聞いていきたいんだけどさ。そもそもの音楽との出会いは、いくつの時?

吉田:あんまり覚えてないけど、両親ともに音楽が好きで家ではBeatlesとか歌謡曲とか、色々流れてましたね。母親が音楽教師だったので、ピアノがあって。まあ遊びでポロロンと弾いてたので、それが出会いかも。五歳ぐらいかな。

心底:うん!いやぁ本当に美味しいね塩辛!熟成されてらぁ。で、お母さんが音楽教師ということは、クラシック?

吉田:そうですね。クラシックは無意識に聴いてましたね。でも未だにメロディは知ってるけど曲名は知らないってのが殆どですね。この歳になって、ようやくイイなぁと思い始めてますね。

心底:じゃあそんなにクラシックは好きではなかったの?

吉田:当たり前に聴いてたので、好き嫌いとかはなかったです。でも最近アンビエントを通過した耳で、意識して聴くようになってからは、これはただものではないぞ、と。歴史の重みを感じて落ち込みますね。

心底:落ち込むw?

吉田:落ち込むというか、これはクラシック専門の人がたくさんいるわけだな~。というか。

心底:ふーん。アンビエントの耳というのはどういう耳?

吉田:人それぞれですが。僕のアンビエント感は、「ながら感」なんです。なにかやりながら、気にならない、でも鳴っている。そして聴いている。そして捗る。みたいなのがそうなのかな。

心底:掃除しながらとか。料理しながらとか?

吉田:そうですね。ジョギングしながら、笑いながら、踊りながら。

心底:踊りながらだと、ダンスミュージックになっちゃうんじゃない?

吉田:あ、そうか(笑)。まあ、心で踊るというか。

心底:アンビエントを意識しだしたのはいつごろ?

吉田:遡ると、DJプレイでRelaxを全面に押し出した時、何かが弾け飛んだ気がしますね。僕、ライフワークとして「ゆるゆるmix」というMIX CDを作ってて、その8まであるんですけど。

心底:へぇ。それは聴いてみたいね。

吉田のライフワークである「ゆるゆるmixシリーズ」も数える事Vol.8まで完成。自身のレーベル「お茶の間涅槃」からリリース。

吉田のライフワークである「ゆるゆるmixシリーズ」も数える事Vol.8まで完成。自身のレーベル「お茶の間涅槃」からリリース。

吉田:で「その3」を作っていつも通り友人達に強制配布した訳です。んで、まあスキモノ連中に好評を得たんですね。

心底:へぇ。どんな感じなの?

吉田:全体的にアコースティックで、ゆらゆら、フワフワした感じで。ビートも殆どないんですけど。あーこういうの好きなんだと自分で再発見したんです。

心底:うんうん、それはSenkawosでのキーボードプレイにも反映されてるのかもね。

吉田:そうですかねー。トレモロ感みたいな。チルアウトとかアンビエントとか、そういう単語を意識しだしたのは、その辺です。

心底:そもそも、DJを始めたのはいつなの?

吉田:高校一年生の時にターンテーブルを買って。最初はHipHopにドップリはまりました。NYの空気感が好きでしたね。ATCQとかPete Rock、DJ Premier、JAY-Deeとか。ザラついてて、メローな感じ。98年あたりになると、RawkusとかFondle Emっていうレーベルが好きでした。Siah & Yeshua DapoEDとかCompany Flowが好きでした。とにかくレコ屋が青春でしたよ。

心底:へぇそうなんだ!日本人は?

吉田:日本語RAPも大好きでしたね。とにかくTwigyがアイドルでした。言葉選びと声と歌心と。天才ですね。Twigyは生音に近いと思います。Jazzのインプロみたいに伸びたり縮んだり、飛んだり跳ねたり。

心底:へぇ。以外だね。TWIGYだとどのアルバムが好きなの?

吉田:ソロじゃないけど、Microphone Pager時代の「DON’T TURN OFF YOUR LIGHT」はキレッキレでかっこいいですね。「場所は屋上から望遠鏡から森の公園のバオバブからリスがおいでおいで、手招きにゃ乗らない俺、トロッコにのって急げ」とか、凄いリリックだと思いませんか?

心底:ほほぅ。聴いてみたくなったよ!でもSenkawosはどちらかというとスチャダラパーとかのが近い気がするけど。

吉田:スチャダラパーも大好きでしたね。ユルさとか、日常に潜む題材とか。アルバムでいうと「5th WHEEL 2 the COACH」と「偶然のアルバム」はかなり影響を受けましたね。

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吉田:トラックも渋いし、雷とかそういうのとは違う、力の抜けた感じが心地いいなと。なによりスチャダラパーは本棚が気になりますね。

心底:え?本棚?

吉田:そう、本棚が気になるアーティストっていうのは、僕の中ではとても重要なんですよね。スチャダラパーはとにかくどんな本読んでるんだろと。

心底:なるほどね。確かに気になる。それを言ったら吉田くんの本棚も気になるけどね。

吉田:そこからHipHopの元ネタのJazzやSoulやFunkには自然に行って。インストが疲れないな、とか。で、二十歳頃、酒屋でバイトしてて、うどんさん(Donsta/Threepee Boys)とか、SHOMIくんとかマニアックに音楽を追いかけてる面白い人達と出会って、色々新たな扉を開けてしまいました。サイケデリックミュージックとか四つ打ちの洗礼を受けたり。こんな音楽があるんだ!と。

心底:へー!

吉田:で、そういう四つ打ちのパーティーにはチルアウト・フロアというのが存在していて、僕にはそっちが心地よかったんです(笑)。エレクトロニカとかジャムバンドとか本当に幅広い選曲でゆったりソファーで寛いで。ダベーっと。

心底:涅槃だね(笑)。

吉田:そう(笑)、そこから「お茶の間涅槃」というキーワードも生まれました。そういうチルアウト・フロアではHipHopも普通に流れてて。なるほど、こういう聞き方は新しいなぁと。四つ打ちを聞き出してからBPMについて色々意識しだしたんですが、HipHopは80〜90bpmあたりでやたら遅いぞ、でも心地いいなぁ。チルアウトとして機能してるぞ。なんて具合に一回転して、またHipHopが好きになったりしました。

心底:なるほど。面白いね。逆輸入みたいな感じだね。普段、DJはどこでやることが多いの?

吉田:三軒茶屋orbit、池袋 鈴ん小屋とかですね。自然とどちらも靴を脱いで寛げる御座敷スタイルの箱なんですね(笑)。あと所沢のMOJOも御世話になってます。どこも少し特殊な場所です。共通するのは居心地が異様に良くて、ご飯が美味しいとこです(笑)。この三カ所を地図上の線で結ぶと綺麗な二等辺三角形が出来上がるんです。

心底:え!そうなんだ!

吉田:わかんない、適当に言ってみました(笑)。でもこの三角地帯は凄くゆるい磁場が働いてる気がしますよ。

心底:面白いね!あとで線で結んでみるよ(笑)。ジャムバンドでは誰が好きなの?

吉田:Medeski, Martin & Woodはやっぱり好きですね。オルガンもだけど、ビリーマーティンのドラムが凄く後ろな感じがイイ。HipHopを通過した耳にスルッと馴染みましたね。

心底:John Scofieldとやってるのは?

吉田:「JAZZ A GOGO」ですね。あれも堪らないですね。大島くんがジョンスコ好きだし、和田くんはBilly Martin好きだし。Senkawosと編成も似てますね。

心底:そういえば!

吉田:7、8年前くらいかな、MMWをON AIR EASTかどこかに観に行って。その時は完全即興なのかわからないけど、グッチャグチャでとにかくノックアウトされました。アメリカ本土から追っかけてきたMMWヘッズが凄い動きでした(笑)。

心底:はは(笑)。僕も行ったよそれ!元ネタを辿って、JazzとかFunkをと言ってたけど、誰が好きなの?

吉田:ピアニストならThelonious Monkですね。あのヨレとハーモニーとか、濁りとか。作曲家としても凄いですがパーカッシヴなプレイスタイルはかなり影響受けてます。

心底:Monk!アルバムでいうと?

吉田:ソロピアノですが、「Alone in SanFrancisco」は、秋口に聞くと色々と切なくてイイです。「空っ風に掻き消されるピアノのリフ」って感じです。ジャケも可愛いし(笑)。

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吉田:あとDon Cherryの「MULTIKULTI」ってライヴDVDが好きで。Don Cherryはフリージャズと言われてるけどこのライヴは無調な感じではなくて、Black Musicの一番いいエッセンスが凝縮されてます。後半にはMonkメドレーがあったり。泣けます。

http://www.youtube.com/watch?v=tKxTplYUdH0

心底:これはいいね!じゃあ音楽に興味がなかったら、今頃なにが好きだった?

吉田:映画が昔から好きなんです。テリー・ギリアムとかコーエン兄弟、黒澤明、伊丹十三とか。最近プロジェクター買って家にホームシアター作ろうかなと企んでるくらい。

心底:うへぇ。それはお金掛かるね。コーエン兄弟は僕も大好きだよ。何が好き?

吉田:うーん。「オー・ブラザー!」も捨て難い。「バーバー」も。最近見た「ノー・カントリー」も全部いいですよね。。でもやっぱり「ビッグ・リボウスキ」かな。グダグダを愛する身としては、あの映画には随分と勇気を貰いましたね。

心底:グダグダ(笑)。やっぱ、あれ?ホワイト・ルシアンとか真似して飲んじゃったクチ?

吉田:です(笑)。まあ太るんで辞めましたけど。てゆうか今も太ってますけど。

心底:じゃあさ、この映画のサントラやりたいとかある?

吉田:うーん、「どん底」ですかね。黒澤明監督の。黒澤作品で最初に観たのが「どん底」で、もうトラウマ的に好きなんですよ。藤原釜足さん、千秋実さん、渡辺篤さん、左卜全さん、もう渋すぎますね。ほとんど劇中で音楽がないのでやりがいがあるかなと。あれ?そういえば心底さんて左卜全さんに似てないですか?

心底:え?そうかな。初めて言われたよ。あの最後の歌のシーンとかリミックスして欲しい(笑)。

吉田:それ、考えてたんですよ(笑)。「おひゃいひゃいとろひゃいとろろ♪」

心底:どん底の終末感つながりじゃないけど、もし明日地球が滅亡するとなったら、何を聴く?

吉田:え~。なんだろう、John Lennonの「Starting Over」とか?「え~じゃないか感」を出すにはやっぱり、シャッフルしてなきゃいけないと思います。最後は笑って滅亡しようぜ。みたいな。

心底:ははっ(笑)。ピッタリだね。今後、演奏してみたい場所とかある?

吉田:「ウィ・ロード」(※池袋の西口と東口を結ぶ仄暗い地下道)はちょっと恥ずかしいけど、やりたいですね。

心底:なんで恥ずかしいの?

吉田:いや、地元だから…。同級生とか通るから…(笑)。

心底:ウィ・ロードでたまに演奏してるカリンバのヤバい人いない?

吉田:います!ヒロユキさんって方です!僕、思わずCD買いましたもん。あそこって独特のリバーブ感があって、雑踏と中国語と怪しげなカリンバの響きが混ざってて、かなりカオスですね。でも美しいんですよね。

心底:へー。僕も今度ヒロユキさんに遭遇したら是非ともCDを買いたいな。じゃあ、吉田くんの好きなアーティストを集めてフェスを開催出来るとしたらヘッドライナー五組はどんな感じ?

吉田:え〜、これは迷いますね。
・Burnt Friedman&The New Dub Prayers
・Sarah Vaughan
・D’Angelo
・Thelonious Monk & John Coltrane Quartet
で最後はBoards of Canadaに締めてもらおうかな。

心底:Sarah Vaughan(笑)!これは行かない手はないね。Senkawosの音楽スタイルって色々ジャンルが混ざってるけど、一言でいうとなんだと思う?

吉田:そうですね。目指すべき音楽スタイルとしては、例えばラーメン食べ終わって水飲んで口の中サッパリさせたけど、美味しくてもうひとくちスープ飲んじゃう。みたいな。つまり「癖になる」スタイルじゃないですかね。

心底:なるほど。食べ物は何が好きなの?

吉田:まあ、塩辛と言いたいとこですが、実は塩辛作る用に買ってきたスルメイカで「イカワタのホイル焼き」をついでに作るんですが、もうなんなんでしょうね、あれは。あの汁とか。御飯三杯くらいペロリですね。むしろそっちが食べたくて塩辛作ってるみたいなとこありますね。

心底:そうなの!?確かに美味いけどさ。コレステロール値に気をつけなきゃね。ご飯といえば、Senkawosはレストランで演奏したりはしないの?

吉田:それは是非やりたいですね。Bill Evansの「Sunday At The Village Vanguard」の録音でお客さんの食器の音がカチャカチャ聞こえてくるんですよ。あれは凄く臨場感があって好きです。食と音楽はとっても似てると思いますね。例えばレシピ=楽譜とするなら創作料理=即興演奏みたいに。だから究極はやっぱりディナーショウ的な事をいつかやりたいですね。

心底:なるほどね。Senkawosの料理にまつわるアルバムとか作ったら面白そうだよね。期待してるよ。じゃあ今作「Seed」についてなんだけど、聴き処はどこ?

吉田:今回は一発録りの「生」な感触を楽しんで欲しいっす。でも色々アレンジに仕掛けもあるし、それはライヴでさらに揉まれていくので、是非ライヴでも体感して欲しいっすね!

心底:なるほどね。生々しいライヴを観てるような臨場感が伝わってきたよ。先日公開されたミュージックビデオではYAMAHA C-3(グランドピアノ)を弾いてるけど、どうだった?

吉田:タッチはやっぱり独特ですね。ぬるぬるっと手に吸い付く感じでした。実は「Seed」のレコーディングに合わせてそれまで使ってた「Nord Electro 3」から「Nord Electro 3 HP」に買い替えたんです。つまりピアノタッチになったんですね。

心底:そうなんだ!どう?やっぱり今までと違うの?

吉田:やっぱりそれまでの「セミウェイテッドのスカスカしたタッチ」では出せない細かなニュアンスが表現出来るのかなと思いますね。やっと最近タッチにも慣れて来ました。11kgで軽くはないけど、かつげるし、可搬性もまあまあ。腰にはクルんですが。

心底:ははっ(笑)。それは気を付けて!バンドマンは体力勝負だからね!

吉田:お互い、腰を大事にしましょう(笑)。

心底:次回作のビジョンとかあるの?

吉田:まだネタ作りの段階ですが、色々モミモミして、歌ものとかも作りたいですね。ゆったりした曲もたくさん作りたい。あと是非やりたいのが生のRhodesでレコーディングですね!

心底:お!それは期待大ですな!これから夏シーズンでライヴも増えてくるから、Senkawosには大いに期待してるよ!

吉田:ありがとうございます!

心底:今日は本当にありがとう!塩辛、とっても美味しかったよ!今後は吉田くん家でも呑みたいね。

吉田:是非!また呑みましょうね。美味しい漬物も用意して待ってます!

さて、全5回でお届けした「心底笑男の不思議な対談」シリーズ、いかがだったろうか。インタビューとは聞き手と受け手に別れるのが常だ。鼎談とはまた異なる「1対1」の緊張感が醸し出す独特の空気は、時に「場末の居酒屋」へ、時に「おとぎ話の世界」へと私を導いてくれた。お互いの腹を探り合い生まれる、共感・相違・疑問。「不思議発見」の連続であった。

Senkawosをもっと深く知りたい — そんな好奇心から生まれた今回の企画だったが、知れば知るほど謎は深まる一方であった。「五人五色の人物像が織りなすハーモニーは、創造された音楽を超えて”Senkawos”という一つの複雑な生命体としてこの世界に存在している」!そんな印象を強く受けた。

これから始まる「嬉しい季節」 — すなわち野外シーズンを迎えるにあたって、読者の皆さまに彼らの魅力が少しでも伝わったなら、インタビュアーとして嬉しく思う。さあ、種蒔きは終わった!そろそろ新芽が出てくる頃だろう。秋深く、豊かな実りが収穫できる事を楽しみにするとしよう。

インタビュアー:心底笑男
音楽評論家。その「味」のある視点で音楽は元より食や映画などを独自の切り口で探求し続けている。2009年に発表された小説「冷めないラーメンはない」が異例の大ヒット。翌年映画化され、第13回新江古田国際映画祭、グランプリにあたる「金熊猫賞」を受賞。
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