第三回「サンプリングと人力」

2015-08-06  Reo Yoshida

Senkawosのキーボード吉田と、Senkawosファンにはすっかりお馴染みとなった音楽評論家の心底笑男さんが、最近の気になるトピックについてヨタヨタとくっちゃべる本企画。第三回目となる今回は「サンプリング」の話題にフォーカス。

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でもテクノもハウスもヒップホップもドラムンベースも、サンプラーがあったからこそ生まれた音楽じゃないですか。

吉: 最近、新しい機材を買ったんですよ。

心: へー、なに買ったの。

吉: Octatrackというサンプラーなんですけど、知ってます?

心: 知らない!なにそれ。

吉: スウェーデンのElektronというメーカーが作った、かなり多機能のサンプラーです。テクノ/ハウス界隈で有名なMachinedrumというドラムマシンを出してるメーカーです。

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心: どんな事が出来るの?

吉: 8トラックあって、そこにループをハメて、自動でタイムストレッチしてくれるので、ループ抜き差ししたり、あとは単音を16stepシーケンサーでビート組んでいったりとか。とにかく楽しいんですよ。

心: サンプラーは初めて買ったの?

吉: いや、最初はZoom ST-224ていう安いやつで高校生の時初めて買ったサンプラーです。その頃はヒップホップにどっぷりだったので、ラップするためのトラックを作ってました。今は多分大島さんちにあるのかな(笑)。

心: 機材っていろんな人んちに回ってくよね(笑)。

吉: そのあと買ったのがRoland SP-606です。これはBPM同期が優秀で色んなループを同期して混ぜて遊ぶみたいなのが楽しくて。4トラックのシーケンサーも付いてて、初めてテクノみたいな曲を作ってみたのもRoland SP-606ですね。でもボタンの作りがショボくて、押しても効かなくなってきちゃって。

心: へー。それはいまどこに?

吉: それは実家に置いてありますね。買い直そうかと思ったけど。BPM同期でタイムストレッチしてくれるループで抜き差しみたいなのが楽しかったので、そういうサンプラーなんかないかなーと探してて。で、Octatrackに出会ったんです。

心: あれ、たまにお茶の間トリオとかソロでよく使ってるRolandの小さいやつは?

吉: あ、Roland SP-404ですね。あれも優秀です。単音のポン出しとかには。ループも簡単に組めるので。でも同期の問題でやっぱり不満で。

心: サンプラーって、バンドやってる人とか、生音好きな人には邪道みたいなイメージを持たれがちだと思うんだけど。

吉: 僕は生音も好きだし、サンプラーで作る音楽も好きですね。でもテクノもハウスもヒップホップもドラムンベースも、サンプラーがあったからこそ生まれた音楽じゃないですか。で、それを聞いた生音のミュージシャンが刺激を受けて演奏にフィードバックする。そんな素敵な循環がここ十数年で起きているという意味では、やっぱり革命的な発明品だと思いますよ。こんなに安く買える時代というのもありますし。

心: そうだね。打ち込みは生のグルーヴを真似て、生楽器は打ち込みのグルーヴを追求してる。有名なとこだとドラマーのChris DaveがJ Dillaのヨレたビートを再現したりとか。面白いドラム叩くよね。確かにいい循環だね。でも、そもそも、サンプラーって音を取り込まなきゃ音が鳴らないじゃない。音ネタありきだよね。

吉: そうですね。ネタ選び。あのネタとこのネタの組み合わせで弄り倒して、全く違うグルーヴを生み出す。

心: 音ネタは何処からもってくるの?

吉: もうなんでもありだと思いますよ。自分で楽器で弾いたフレーズからでも、映画から、レコードから、YouTubeから。フィールドレコーディングした素材からとか。もう無限ですよね。

でもそれを巧妙に分からなくする方法でしかもカッコイイよくしてるのが凄いですよね。

心: 最近、MadlibがBob Jamesに著作権侵害で訴えられたってニュースがあったよね。(※1)

吉: まあそれをリリースするとかだと、そういう問題が出てきますよね。僕みたいに個人で遊んでる範囲ならなんでもアリだし、リリースするクオリティでは全然ないんであれですけど。

心: メジャーレーベルからサンプリングした曲をリリースするにはそういうクリアランスの問題があるよね。アンダーグラウンドのシーンではまだまだ自由だと思うけど。

吉: Redbull Music AcademyのErykah Baduのレクチャー見ました?(※2)

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吉: そこで言ってたんですけど、J DillaとかMadlibは一日中MPCに向かってて、一日中ビートを作ってるらしいんですよ。それこそ一日何十曲って。で、サンプリングしたネタも全然覚えてなくて、次から次に曲完成させちゃうから、Erykah Baduが後々J Dillaのアーカイヴから掘ってきた曲でリリースする時に、ネタ元が分からなくて、それを調べるのが大変だったって言ってましたね(笑)。

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心: へー。面白いね。でも、サンプリングって音楽だけじゃないでしょ。アートの世界でも、料理でも、タランティーノとかの映画でも、なんでもそうだよ。まんま使い、大ネタ使い。

吉: そうですね。インスパイアとはまた違うんですけど。でもそれを巧妙に分からなくする方法でしかもカッコイイよくしてるのが凄いですよね。DJ Premierとか。

心: サンプリングで作られた曲で、例えば何が好きなの?

吉: 山ほどありますけど、、DJ Premierだったら、ビギーの「Unbelievable」とか。ネタを切り刻んで別次元まで昇華させてますよね。

今思い浮かんだのは、Nasの「One Love」って曲ですね。まあ単純に好きなんですよ。カリンバとウッドベースとギターかな。組み合わせが渋いんですよ。これはQ-Tipプロデュースです。

今はまだ、機械を操ってるのは人間なんで。人間による機械音楽という概念からは出てないですよ。

心: これはド渋だね。じゃあもし今後Senkawosのなんかの曲がサンプリングされたらどーする?

吉: うーん、それは嬉しいですね(笑)。なんかそれを目標にしてるとこもありますよね。カバーされたりとかじゃなくて、サンプリングされたというのはまた新しい価値観というか。バンド冥利ですよね。

心: なるほどね。

吉: でもサンプリングってやっぱり質感を真空パックするというか、質感の引用じゃないですか。だから昔のアナログ卓で録音された音からサンプリングされたものが多いですよね。

心: そうだね、ザラついてるというか、わざとLo-Fiに向かってくのが好きな人は多いよね。

吉: 僕もサンプリングする側だからこその意見かもしれないけど。「パクりじゃん」とはもう思えないほどサンプリングという手法が好きなので、まあバンドメンバーはどう思うか分からないですけど。誰かSenkawosの曲サンプリングして全然違う曲作って聴かせて下さい!と小さく言っときます(笑)。

心: そうなんだ、されたいんだ(笑)。で、そのOctatrackっていうのは面白いの?

吉: そうですね。まだ機能が多すぎて一つ一つ覚えていってるとこなんですけど、ルーパーがついてるのは良いですね。生楽器をどんどんリアルタイムに重ねたり出来るので、ライブ向けです。あと16stepのシーケンサーというのをちゃんと弄ったの初めてなんですが、これが最高に楽しくて(笑)。

心: 16STEPっていうのは、要はRolandのTR-808とか909みたいやつでしょ?

吉: そうですね。まあドラムマシンではないのでドラム音源は自分で探すんですけど。「四つ打ち」ってなんか抵抗があって、一時期敬遠してたんですけど、試しに「1.5.9.13にキックをハメてみて、2拍目4拍目にスネアだ、パーカッションだ」とかやってたらだんだん楽しくなってきて(笑)。やればやるほど奥が深いです。

心: なんだか楽しそうだね(笑)。僕も触ってみたいなOctatrack。

吉: 少々値段が張りますけど、一家に一台はあったほうがいいですね(笑)。

心: じゃあ四つ打ち?テクノとか聴いてるの?

吉: 昔はつまみ食い的に聴いてたんですけど、バンドサウンドに入れ込んでたここ5年くらいは全然聴いてなくて。だから色々音源掘り返して四つ打ちグルーヴの研究の為に聴いてます。

心: どんなの聴いてるの?

吉: 全然誰の曲とかは分からないんで、適当にMixcloudとか、dubinchくん・BPM100のZuKaRoHiさん・Ko Umeharaのmixとか聴いて研究してます。

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心: 研究、研究ってなんなの(笑)。

吉: いや、例えばSenkawosの新曲でも、ミニマルっぽい事をやりたくて、色々試行錯誤してて。やっぱり音を埋めたがりなんで。ずっと同じだと不安になってくる。飽き性なんですよね。ミニマルは奥が深い。

心: 聴いてる側と演奏してる側は違うからね。でもシーケンサーっていうのはバンドの概念ではないじゃない。

吉: そう、だから「人力」って言葉がバンドではよく出てくるんですよ。人力テクノ、人力アルベジエーター、人力ディレイ。「マシンの様に!鬼タイトに!」これは大島さんの口癖なんですけど(笑)。

心: 「人力」ってマシンのやってることを人がやるって意味じゃない。じゃあ人がやってる生グルーヴを機械で再現というのもあるんだよね。

吉: そうですね。ハネた感じを出すとかですかね。スウィング感とか。でもそこは機械が人間のグルーヴに近づきたいという意識を持った時に、AI(人工知能)が身近な世界になった時に面白くなって来るんじゃないですかね。今はまだ、機械を操ってるのは人間なんで。人間による機械音楽という概念からは出てないですよ。

心: 機械が自らの意思で音楽を作る時代が来るってこと?(笑)。それは凄い発想だね。でもあり得るかもね。「オレノシンキョク、キイテクダサイ」って。

吉: まあそれはまたSFとか、別の話ですけど。でもシーケンサーをいじる事でバンドにも面白い影響がでるんじゃないかなとは思いますね。

心: そうだね。ミニマルな新曲楽しみにしてるよ。そのOctatrackを使ったライヴはないの?

吉: 三軒茶屋orbitで毎月第二火曜に開催している「3◯0(サワレ)」というパーティーがありまして、次回の8月11日(火)は毎年恒例の「サワレイブ」。「踊ろう!」をテーマにそれぞれがRAVE感を出すので、僕もソロライヴでダンスミュージックをやってみようかなと思ってます。

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-sa-wa-Rave-

8月11日(火) 21時オープン
1st Drink ¥1,000
三軒茶屋bar Orbit
【Live】RNST/俺田 塩男
【Guest DJ】Funnel/INNA/Soutarow
【DJ】自由/砂漠/asn(休み)/farmy/AMA UU
【絵描き】飯野モモコ/MIYUKI(liquidbiupil)
【ご飯】3○0特製ホットサンド
【整体】いおり
facebookイベントページ

心: そうなんだ!それは楽しそうだね!

吉: あと、8月16日(日)は浅草のSound Bar Pure’sでお茶の間トリオとdivideperzeroの共同企画、「ぼくらのコンビナート」。こちらもOctatrack使おうかなと思ってます。

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ぼくらのコンビナート

8月16日(日) 18時開場
¥1,000
浅草 Sound Bar Pure’s
【Live】お茶の間トリオ/divideperzero/善哉和也
【DJ】マイケルJフォクス
facebookイベントページ

心: お茶の間トリオ( お茶の間トリオ — コタツトップエクスペリエンス )での吉田くんはどういう立ち位置なの?

吉: 僕はビートとベースラインと上物を。全部っちゃ全部なんですが(笑)。まあ基本はビートですね。そこに大島さんのアナログシンセとラジオノイズが乗り、エリヲのキーボードと飛び道具のオモチャノイズが散りばめられる感じです。

心: まだ観たことないんだよね。どっちも遊び行くよ!

吉: 是非とも!お待ちしてます!!!


※1:
ヒップホップのビートメーカー、マッドリブがサンプリングソースとして有名なボブ・ジェームスに訴えられたニュース。今更感は否めない。
ボブ・ジェームズ、マッドリブを告訴 | Wax Poetics Japan

※2:
レッドブル・ミュージックアカデミーのレクチャーに登場したエリカ・バドゥ。嬉しい日本語訳付き。
LECTURE: ERYKAH BADU, MADRID 2011(日本語字幕)

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