第六回「パスタとイカの話」

2016-01-15  Reo Yoshida

Senkawosのキーボード吉田と音楽評論家の心底笑男が、最近の気になるトピックについてヨタヨタとくっちゃべる本企画。第六回目となる今回は、イカへの想いについて。

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お湯の中で麺をほぐしていると、すぐさまセカンドウェーブが訪れるんです。

吉: 心底さん、僕、病気かもしれないんです。

心: どーしたの?顔色悪いよ。大丈夫?

吉: もう苦しくて苦しくて。

心: え?病院行った?胸が苦しいの?

吉: 病院って程ではないんですよ。胸じゃなくて、お腹が苦しいんです。吐き気がして。

心: え、うん、、それって、、。胃腸炎?軽い胃潰瘍とか?

吉: いや、違います。そうじゃなくて、、つまりその、、、僕は、、その、、、

心: 大丈夫?

吉: さっき晩御飯に、パスタを食べ過ぎて、、。つまりその、、、あの、、

心: 食べ過ぎ!?

吉: そうなんです。お腹一杯なんですよ!

心: 吉田くん、それは病気とは言わないよ(笑)。

吉: いや、そうじゃなくて、この苦しさの原因はつまり「パスタ茹で過ぎ病」という病気だと思うんですよ。

心: なんだそりゃ。どーいうこと?そんなに茹でるの?

吉: こんなだらしない体になったのも、この病気のせいなんですよ。

心: ちょっと何言ってるか分からないよ。茹で過ぎたなら残して後で食べればいーじゃない。

吉: いや、それは駄目なんです。後で食べるにも麺は伸びちゃうし、パスタって温め直しても美味しくないし、基本的に御飯を残すって事にちょっと抵抗あるんですよ。何かに負けたというか。

心: あ、そう(笑)。自業自得としか言いようがないけど。

吉: まあだらしない身体になったことは別に気にしてないんです。ただ、何故パスタを茹で過ぎてしまうのか。という事を科学的かつ心理的に分析してみたので少し聞いて頂けますか。

心: どーぞご自由に(笑)。

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吉: まず「お腹が減っている」という生物が抱える基本的な欲求がありますよね。これは見落としがちですが「茹で過ぎ」の一番の要因だと思うんです。「がっつりテラ盛り食べてやんぞ!」という心理が働いて。

心: それが全てでしょ(笑)。

吉: でもそこに、お腹の減り具合というのが絡んでくるんですよ。今日は昼飯も少なかったし、もうちょっと足してもいいかな、と。

心: そもそも茹でる量に基準というものがあるの?吉田君には。

吉: いやこれがないんですよ。例えばラーメンとか焼きそばとか、明確な一人前が提示されていれば、2人前はこの位だ。というのがすぐわかるじゃないですか。

心: なんにせよ基本的に2人前は食べるんだね。

吉: パスタはそれがないじゃないですか。だから自分の基準で親指と人差し指で丸を作って、だいたい鉛筆10本分くらいのパスタをまずドサッと入れるんです。それがデフォルトの量。

心: その時点で2〜3人前だね(笑)。

吉: そうなんですか?で、そこに「もうちょっと食べれるんじゃない?」と囁く妖精が現れるんですよ。脳内かどこかに。

心: ふんふん。

吉: 「そうだよな、お昼少なかったからお腹減ってるしな〜」というノリで、鉛筆3本分くらいをポポンと追加するんですね。

心: 鉛筆3本分か、それだけでも高級イタリアンとかで出るパスタなら成立する量だよね(笑)。

吉: で、お湯の中で麺をほぐしていると、すぐさまセカンドウェーブが訪れるんです。「行ってまえ!行ってまえ!」と囁く妖精ですね。で二回目は「クリリンの分」として鉛筆2本分投入するんです。

心: なんだそれ。なんでクリリンの分?

吉: いやなんか、ドラゴンボールで悟空がそんなセリフ言ってたんですけど、瞬発的に出てくるセリフなので、大義名分は「クリリンの分」として追加投入するんです。

心: はぁ。次ヤムチャの分?

吉: いや、そこで初めて反発に合うんです。「おい、お前はまだ分からないのか」と神様が囁くんですよ。「これ以上入れてはならぬ、また食べ切れずに後悔するだけだぞ」と。

心: それはそうだ。健康の神様だよ。

吉: でもそこで負けてらんないんで、「なんだと〜!」と僕は思ってしまうんです。

心: 救いようがないね(笑)。

吉: 「お前に何が分かる!おれは腹減ってるんだぞ!」と。「俺の胃袋ナメんなよ!」という事でもう鉛筆5本分が追加投入されてしまうんです。

心: されてしまうって、人ごとみたいに(笑)。あ、そう、、。ちょっと整理していいかな。まず鉛筆10本分ね。そのあと「もうちょっと食べれるんじゃないか」で3本分でしょ。さらに「クリリンの分」として2本分、トドメは「俺の胃袋ナメんなよ」名義で5本分だね。合計すると、、、

吉: えっと、鉛筆20本分ですね。

心: そんなに笑顔で言う台詞じゃないよ(笑)。

吉: そのくらい食べませんか?

心: 食べませんかじゃないよ。食べられないでしょ。

吉: とにかく、僕は今日も鉛筆20本分のパスタを平らげてきて、それはそれは苦しいんですよ。

心: 僕も苦しい。ちょっと理解に苦しむよ(笑)。

吉: この話を分かってるれるのは友達のシンガーソングライターのQULIちゃんくらいですよ。「分かる〜!」と目を輝かせてましたね。

心: QULIちゃんは今マラソンに夢中だから、いくら食べてもすぐ燃焼されるけど、吉田くんは運動なんてしないでしょ?

吉: そうですね、、。

冷蔵庫の中を見たらトマトが入ってたんですよ。そこでビビビッと来ました。

心: 今日は何パスタを作ったの?

吉: 今日はイカロッソです。

心: なんだいそれは。

吉: 「イカロッソ」というのは僕が命名したんですけど、アサリの白ワイン煮込みが「ボンゴレ・ビアンコ」なら、イカのトマト煮込みは「イカ・ロッソ」だなと。

心: ロッソは赤って意味だね。つまりイカのトマト煮込みソースのパスタなんだね?

吉: この話も長くなるんですけど。遡ると、ここ数年イカの塩辛を自家製で作って食べるのにハマってたんです。

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心: それは知ってるよ。

吉: でも最近、作ったらすぐ食べたいなと思うようになって。塩辛は2、3日置かないと美味しくないんです。すぐには食べれない。で、塩辛じゃなくてもいいやと。僕はイカの内臓、イカワタが好きなんだという事に気付いて。

心: イカワタのホイル焼き?

吉: そうホイル焼きならすぐ食べれるんですよ。でもその内ホイルに包むのも面倒になって、イカをザクザク切ってそのままフライパンで炒めるのが手っ取り早いなと気づきましたね。

心: ただのイカワタ焼きだね。

吉: そう、一番早くイカワタにありつけるのがその方法だったんです。で、スルメイカは安いし年中スーパーにも並んでるんで、三杯くらい買ってきて、全部炒めちゃうんですよ。

心: それは「イカ炒め過ぎ病」だ。

吉: そうです。でもイカだけじゃなくて、キノコとかナスとか玉ねぎとかも入ってるんですよ。味付けは生姜と醤油とお酒だけ。

心: いーね。日本酒に合いそう。

吉: いかんせん作り過ぎちゃうので、1日じゃ食べきれない。でも2日目もイカワタ焼きはなんだかなーと思って、冷蔵庫の中を見たらトマトが入ってたんですよ。そこでビビビッと来ました。

心: それは素敵なハーモニーのセンサーの音だね?

吉: そうです!マリアージュのセンサーがビビビッと。

心: じゃあ2日目のイカワタにトマトをぶち込んで?

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吉: そうです。トマトソースの要領でニンニクをオリーブオイルで炒めて、そこにトマトを入れて炒めて、2日目のイカワタ焼きをゴソっと。あとは生クリーム。これ、2日目っていうのがポイントだと気付いたんですよ。

心: 2日目のカレーは美味い理論みたいな?

吉: そう、イカワタ焼きを1日置いて冷ますことによって旨味が凝縮されるのか、もの凄いコクが出て美味いんですよ?

心: 美味そう!でも鉛筆20本分もパスタ入れたらソース足りるの?

吉: そう、足りないんです。「俺の胃袋ナメんなよ」名義まで行っちゃうと。だから「クリリンの分」名義くらいでSTOPしますね。

「旦那〜!あっしのワタはデカイでっせ〜」と語りかけてくるんですよ。

心: それでも茹で過ぎだけどね。でもなんでイカワタってあんなに美味しいんだろね。そーいえばこないだ僕も作ったんだけど、いまいち、なんかパッとしない味でさ。

吉: それはイカちゃん選びから間違っている可能性大ですね。

心: え?イカちゃん?ちゃん付け?

吉: 愛情を込めてイカちゃんと呼ばせて貰ってますよ。塩辛とかイカワタ焼きなら絶対にまずスルメイカです。これはワタの量がズバ抜けてる。イカワタ界の王様ですね。

心: そうなんだよね。まずそこでつまずいたもんな。ヤリイカ買っちゃったりして。

吉: スルメイカです。で、色を見るんですけど新鮮なものほど茶色いんですよ。だからなるべく茶色いもの。

心: そうなんだ!

吉: 生きてるイカは透明なんですよ。それが店頭に並ぶ頃には茶色くなっていくらしいんですけど。あとコクを出すならワタのサイズが一番重要なんですよ。旨味は全てワタに凝縮されてますので。それは身体の大きさで見るしかないんで、なるべく肥えたイカちゃんを選ぶようにしてます。

心: そうなんだ!それは豆知識だね。

吉: でも肥えててもワタが小さいイカちゃんも居るんですよ。だからイカちゃんの目を見るんです。欲深そうなイカちゃん程ワタはデカい。

心: そこまで見る!?

吉: まあそこは勘を頼りに。「旦那〜!あっしのワタはデカイでっせ〜」と語りかけてくるんですよ。スーパーのイカ売り場で30分くらいイカちゃんを睨んでるギョロ目の丸眼鏡が居たら、僕と思ってもらって間違いないですね。

心: きっと鮮魚売り場の店員さんに「ギョロ目イカ」ってあだ名つけられてるよ(笑)。

吉: もはや本望ですね。でもイカワタってグロいですよ。やたらメタリックで。最初気持ち悪くて触れなかったですもん。

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心: だよね。戸惑うよね。

吉: 最初はゴム手袋とかして、手に匂いつくし。でもだんだんと捌いて捌いてを繰り返して、イカちゃんの身体の構造を理解してくにつれて、生命の神秘というか、イカちゃんへの感謝の気持ちが芽生えはじめて。

心: う、うん(笑)。

吉: ゴム手袋とか失礼だなと。触覚も含めて 五感で味わうというか。それからはガシガシと躊躇なくいけるようになりましたね。イカちゃんの身体って凄い構造なんですよ。

心: イカ墨の袋ってほんのチョットなんだよね。

吉: 少ないですよね。イカスミパスタなんて感謝でしかないですよ。塩辛で黒作りっていうのがイカスミも混ぜる製法らしいですね。

心: あれは美味いね。

吉: 塩辛造りは最近ご無沙汰なんですけどね。イカちゃんで一番美味しい所はワタの根元ですね。ワタを支えてるとこっていうか。凄い肉厚な噛み応えと、ワタの旨味が合わさって。この写真でいう右の白い部分。

心: あとイカの口も美味しいよね。珍味で干物になってるおつまみとか、たまにあるけど。

吉: カラスのくちばしですね。あ、そういえば僕の友達のMiyukiちゃんっていう絵を描いてる子がイカワタ焼き大好きのイカワタ仲間なんですけど、そのむかし、居酒屋に白飯を持ち込んでイカワタ焼きだけ頼んだ事があるって言ってましたね。

心: 白飯持ち込んだの?

吉: 僕はそれ聞いて感動したんですよ。白飯がない居酒屋だったのかは分からないですけど、イカワタ焼きはあの煮汁を白飯にかけて食べるのが何より美味しいんです。

心: ヨダレ出てきたよ。

吉: そこのツボを押さえてるMiyukiちゃんに感動して。とにかく白飯とイカワタ焼きは人類史に残る偉大な組み合わせですよ。

心: 人類史って、、そこまで言うかね。

吉: そしてイカワタとトマトは新たなスタンダードになると自負していますね。言うならば日本とイタリアの架け橋です。

心: なんだか凄いね、吉田くんのイカ愛。

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吉: 母親がイカワタ女だったんです。しかもワタだけをホイルに包んで醤油垂らして焼いて、それでお酒呑んでたり。

心: へー。飲兵衛なんだね。

吉: 僕もそこで教育されてしまって。でもそこからイカロッソを生み出すまでに苦節25年はかかりました。あれは本当に奇跡のハーモニーです。

心: マリアージュ!今度食べたいねイカロッソ。

吉: 是非とも!テラ盛り作って待ってます!

心: でも吉田くん、くれぐれも痛風には気をつけるように!

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